～生産数のすれ違いがビジネスの鍵を握る～
はじめに：なぜ月間生産数が重要なのか？
プラスチック成形業界では、「月間で何個作れるのか」という生産数量の見積もりが、発注者と受注者の間での重要な判断基準になります。これは、在庫管理、納期遵守、コスト削減に直結するためです。しかし、実際の現場では、この「数量」に関して双方の考え方や期待が大きく食い違ってしまうケースが後を絶ちません。
このコラムでは、月間生産数に関わる課題や期待のズレを明らかにし、より円滑な取引を実現するための視点とポイントを解説します。
発注者側の思い：安定供給と価格のバランス
発注者にとって最も重要なのは「安定供給」と「単価の最適化」です。
- 希望する数量が継続的に生産できるか？
- 数量を増やすことで単価を下げられないか？
- 繁忙期や不測の事態でもバックアップ体制はあるか？
このようなニーズから、「月に◯万個は作ってほしい」という要望が提示されます。しかし、その裏には以下のようなプレッシャーが存在しています。
- 社内在庫の最小化（ジャストインタイムの徹底）
- 価格交渉の材料（数量ボリュームによる値下げ要求）
- サプライチェーンの責任分散
つまり、発注者にとって生産数の確約は、単なる「数字」ではなく、ビジネス全体の信頼構築の根幹なのです。
受注側の思い：工場稼働率と人員調整のリアル
一方、受注者である成形工場側はこう考えています。
- 月間の生産数は機械の稼働率と人員の確保に大きく左右される
- 多品種少量生産や変動の大きい注文には段取り替えの工数増大がある
- 素材や金型の納入タイミングによって、生産スケジュールがずれることも
たとえ「月に5万個は作れます」と言っても、その裏にある制約条件を正確に共有しなければ、現場ではトラブルの原因となってしまいます。よくあるのは以下のようなケースです。
「月に5万個の予定だったのに、金型の調整で1万個しかできなかった」
「急に数量が倍になって、夜勤と休日出勤で何とか間に合わせた」
こうしたトラブルを避けるには、リードタイム・在庫・出荷単位のすり合わせが必須です。
月間生産数のすれ違いを防ぐには？
1. 生産能力の「柔軟性」も伝える
ただ「月に◯個作れます」と言うのではなく、
- 月平均／ピーク時／最少ロットの三種類で説明
- 生産可能数量に影響する要素（工程数・冷却時間・段取り替え頻度など）
を併記することで、実務的な会話が生まれます。
2. 数量と価格の「相関関係」を共有
「5,000個だと単価30円、1万個なら27円」といった数量割引のモデルを提示することで、発注者側も生産量の意義を再認識できます。
3. 生産スケジュールの共有体制を整備
Googleスプレッドシートやkintoneなどを活用して、納期予定・進捗・在庫状況をリアルタイムで可視化する体制の構築が、信頼関係の土台となります。
成功事例：毎月の可視化が信頼を生んだ例
ある精密成形メーカーでは、発注者と共に「生産・納品モニタリング表」を運用。月初に希望数量と予定納期を共有し、月中に数回進捗共有。これにより、
- 工場側が納期遅れを事前に共有できる
- 発注側が余裕ある出荷準備ができる
- 単価交渉も、数量に応じて柔軟対応が可能に
といったWin-Winの関係性が構築されました。
まとめ：数量の会話に“思い”を添える
月間生産数とは、単なる「製造能力」の問題ではなく、発注者の安定志向と受注者の現場最適のせめぎ合いでもあります。
だからこそ、「数字」の裏側にある現実や制約、想いを丁寧に伝え合うことが、信頼されるパートナーシップ構築の第一歩です。