〜脱炭素時代の製品設計と金型の役割〜
はじめに:成形業界にも「持続可能性」の波
地球環境への配慮、CO2排出削減、そしてリサイクル可能な素材の活用。これらのキーワードは、もはや大企業だけのテーマではなく、私たち成形業界の現場にも深く浸透し始めています。
特に2025年を目前に控え、企業のサプライチェーンに対するESG(環境・社会・ガバナンス)要件が強まる中、「サステナブルな製品を作ること」が取引の条件となりつつあります。
では、サステナブルなプラスチック製品とは何か?どう実現すべきか?
本コラムでは、成形品・金型設計・素材選定・生産プロセスに至るまで、実践的な観点で解説します。
1. サステナブルなプラスチックとは?
一口に「サステナブル」と言っても、いくつかの切り口があります:
- 再生材(リサイクルプラスチック)の使用
- バイオマスプラスチック(植物由来)の利用
- 再利用・長寿命化を意識した設計(Design for Reuse)
- 製造時のCO2排出量削減
- 成形後のリサイクル性の確保(モノマテリアル)
つまり、素材・設計・成形工程・回収方法まで、製品ライフサイクル全体を通じた「持続可能性の担保」が求められるのです。
2. 金型屋としてできること:設計段階からの貢献
サステナブルな成形品を目指すには、金型の初期設計段階からの取り組みが重要です。以下は現場で実践可能な対応例です:
① モノマテリアル対応設計
異素材の組み合わせを避け、単一素材での部品構成が可能な設計を金型の仕様に反映。これにより分別不要なリサイクル性が向上。
② 中空化・薄肉化
不要な肉厚や無駄な重量を見直すことで、原材料の使用量を削減。エネルギー消費も抑えられます。
③ ランナー・ゲートの最適化
成形時のランナー材廃棄を最小化するゲート位置・流路設計により、廃材削減が実現できます。
3. バイオプラスチック成形の課題と対策
最近増えている要望が「バイオマスプラスチックでの成形」。しかしここには成形側として注意すべきポイントがあります。
- 熱安定性が低い素材も多く、成形条件が繊細
- 金型の摩耗性が高い素材もある
- 寸法精度が変動しやすい傾向
よって、射出条件の最適化・温度制御設計の工夫・離型性を意識した表面処理など、金型側での工夫が不可欠です。
4. 工場全体でのサステナブル化:成形プロセスの見直し
製品自体だけでなく、工場プロセス全体の環境負荷低減も欠かせません。
対策項目 | サステナブル化のメリット |
高効率の成形機導入 | 消費電力・CO2削減 |
廃材の再粉砕・再利用 | 資源の循環性向上 |
成形サイクルの短縮 | エネルギー効率アップ |
工場照明のLED化 | 電力コスト削減 |
このような省エネ・省資源の実施は、経済的メリットとCSR評価の両立に繋がります。
5. 調達企業が見るポイント:サステナブル対応力
新規取引先を選定する企業が重視する観点は以下の通りです:
- 環境対応素材での実績有無
- リサイクル対応の金型設計能力
- ISO14001などの環境管理体制
- バイオ・再生材対応の射出設備有無
つまり「環境配慮できる成形パートナーか?」が、今後の受注の分かれ目となるのです。
まとめ:取引先の信頼を勝ち取る“見える化”
持続可能なプラスチック製品を作るには、素材や設計だけではなく、「金型レベルでどこまで配慮できるか」が問われます。そしてそれを明確に“見える化”し、実績・方針として提示することで、取引先からの信頼獲得にも繋がります。
もし「サステナブル対応を強化したいが、何から始めればいいか分からない」という企業様がいらっしゃれば、まずは小さなテーマ(リサイクル性・ランナーの見直し)から一歩ずつ始めてみましょう。