― 軽量化と高意匠を両立するプラスチック成形の革新技術
■はじめに
プラスチック製品に求められるニーズは年々高度化しています。軽量・高強度・高意匠・コストダウンといった多くの要望に対応するには、成形技術そのものの進化が欠かせません。
その中でも、特に注目されているのが「ガスアシスト成形(Gas-Assisted Injection Molding)」です。
本記事では、ガスアシスト成形とは何か、その原理、活用分野、導入のメリット・注意点などを解説します。
■ガスアシスト成形とは?
ガスアシスト成形とは、プラスチックの射出成形中に窒素ガスなどの不活性ガスを射出し、製品内部に中空構造(空洞)を形成する成形技術です。
一般的には、樹脂を金型内に射出した後、まだ溶融している段階で高圧のガス(主に窒素)を注入します。このガス圧により、樹脂が型の外周に押し付けられ、内部に中空のトンネル状構造ができる仕組みです。
■なぜガスアシスト成形が選ばれるのか?
この技術が注目される理由は、見た目や強度を損なわずに“軽量化・肉厚化・反りの抑制”が可能だからです。以下のような課題に対応できます。
課題 | ガスアシストによる解決 |
肉厚部品はヒケが出やすい | 中空構造にしてヒケ防止 |
大型成形品の冷却に時間がかかる | 体積が少ないため冷却時間が短縮 |
成形品が反ってしまう | ガス圧で均一な圧力をかけ反りを抑制 |
軽量化したい | 中空で軽量化、強度も確保 |
■ガスアシスト成形の基本工程
ガスアシスト成形は、以下の流れで行われます。
- 樹脂の射出
通常の射出成形と同様に、金型へ溶融樹脂を充填します。ただし完全充填せず、80〜90%程度で止めるのが一般的。 - ガスの注入
その直後に、高圧窒素ガスを樹脂内に注入します。ガスが樹脂を押し広げて型の隅々まで行き渡らせます。 - 冷却・ガス排出
成形品が冷却されると、ガスも一部排出または閉じ込められます。内部には空洞が形成されます。 - 取り出し
金型を開き、完成した中空構造の製品を取り出します。
■ガスアシスト成形のメリット
● 軽量化と高剛性の両立
中空構造により最大30〜50%の軽量化が可能でありながら、構造的に剛性は保持されます。
● ヒケ・反りの抑制
通常の肉厚成形では避けがたい「ヒケ」や「反り」が、ガスによる圧力で抑制され、外観品質が大きく向上します。
● 成形サイクルの短縮
中空のため樹脂量が少なくなり、冷却時間が短縮され生産性が向上します。
● デザイン自由度の向上
今までは困難だった「厚肉」「複雑形状」も対応可能。デザイナーの意匠設計の自由度が広がります。
■適用される業界・製品例
ガスアシスト成形は、大型・厚肉・意匠部品を必要とする多くの業界で導入が進んでいます。
業界 | 製品例 |
自動車 | インストルメントパネル、ハンドル、ドアグリップ、ランニングボード |
家電 | テレビの筐体、冷蔵庫の棚、洗濯機パネル |
オフィス家具 | 椅子のフレーム、アームレスト |
工業用品 | ハウジング部品、ツールハンドル |
医療機器 | 軽量かつ剛性が必要な筐体部品など |
■ガスアシスト成形の注意点・デメリット
● 設備投資が必要
ガスアシスト専用の高圧ガス供給システムやガス制御装置が必要となり、初期導入コストが高めです。
● 設計・解析が難しい
内部空洞の設計やガス流路の配置にはノウハウが必要。CAE解析(シミュレーション)を活用することが多いです。
● 材料制約
ガスアシストに適した樹脂(主に非晶性樹脂や流動性の良いグレード)でないと均一なガス流路が作れないことがあります。
■ガスアシストと他工法の比較
工法 | 特徴 | 主な用途 |
通常射出成形 | 最も一般的、コスト低 | 小型・中型製品 |
ガスアシスト成形 | 肉厚・中空・高意匠 | 大型・厚肉製品 |
インサート成形 | 金属・他素材との複合 | 電子部品・構造体 |
2色成形 | 異樹脂を一体成形 | 意匠・機能性製品 |
■今後の展望と技術トレンド
ガスアシスト成形は、自動車の軽量化ニーズや、家電製品の意匠部品の要求により今後も拡大が予測されます。また、3Dガスアシスト技術や**水アシスト成形(水圧での中空形成)**など、より複雑かつ高精度な中空成形も進化中です。
さらに、再生樹脂やバイオマスプラスチックとの組み合わせで、サステナブルな製品づくりにも活用が期待されています。
■まとめ
ガスアシスト成形は、軽量化・高強度・高意匠・成形安定性を同時に実現できる高度な成形技術です。
設備導入や設計難易度の課題こそありますが、適切に活用すれば製品価値の飛躍的向上に繋がります。
「大型製品の反りで困っている」「肉厚部品のヒケを抑えたい」「成形サイクルを短くしたい」といった悩みをお持ちの方は、ぜひガスアシスト成形の導入を検討してみてください。