成形品の変形を防ぐにはどうすればよいですか?

メンテナンス・劣化対策

プラスチック成形における「成形品の変形(そりや歪み)」は、品質を大きく左右する非常に重要な課題です。特に精密機器の筐体や自動車部品、医療機器など高精度が求められる製品では、わずかな変形でも致命的な不良となることがあります。本コラムでは、成形品の変形がなぜ起きるのか、その主な原因と実践的な防止策について詳しく解説いたします。


変形が起きる主な原因

成形品の変形は、多くの場合「成形条件」「金型構造」「材料特性」の3つに起因します。それぞれの要素が複雑に絡み合っているため、総合的な視点で対策する必要があります。

1. 温度の不均一による収縮差

プラスチックは冷却時に体積が収縮しますが、肉厚が不均一だったり、金型の冷却系統が偏っていたりすると、収縮が部分的に異なり、反りやねじれが発生します。

2. 材料の結晶化特性や繊維配向

結晶性樹脂(例:POM、PA、PBTなど)は冷却時に結晶構造を形成するため、非結晶性よりも収縮が大きく、しかも方向性があります。さらにガラス繊維強化材(GF入り)の場合、繊維の配向によって収縮率が方向によって異なるため、変形の原因になります。

3. 金型のキャビティ配置やゲート設計の不備

複数個取り(マルチキャビティ)金型において、ランナーのバランスが悪いと各キャビティに樹脂が均等に充填されず、結果的に変形を招きます。また、ゲート位置が悪いと樹脂の流動が偏り、内部応力が残って変形しやすくなります。


成形品の変形を防ぐための対策

変形を抑えるためには、設計・金型・成形条件のすべてに対して多角的にアプローチする必要があります。

1. 肉厚設計の最適化

肉厚は均一であることが理想です。不均一な肉厚は冷却速度に差が出るため、変形の温床となります。やむを得ず肉厚に差が出る場合は、リブ(補強)やボスを設けて、変形を機械的に抑える工夫を施しましょう。

2. 金型の冷却系設計

冷却ラインの配置は変形抑制において極めて重要です。冷却が不均一だと、一部だけが早く固まり内部応力が発生します。特に大型成形品では水路の数や距離、対称性を考慮した設計が必須です。

3. ゲート位置と成形品の流動解析

CAEソフトなどを使って、どこにゲートを設ければ均等に樹脂が流れるかを解析します。ウェルドラインの発生箇所や流動遅れを予測することで、最適な成形品形状とゲート設計を導けます。

4. 成形条件の適正化

充填圧力、保圧時間、冷却時間、金型温度などの条件を最適化することも重要です。保圧不足や冷却不足は、変形の直接的な原因になります。特に冷却時間を削りすぎると、製品が変形しやすくなるので注意が必要です。


使用材料の選定も変形抑制に有効

材料自体の収縮率を考慮することも忘れてはなりません。たとえば、PP(ポリプロピレン)は収縮が大きく変形しやすいですが、ABSやPCは比較的収縮が小さく安定しています。また、ガラス繊維入り材料は変形に強いですが、繊維配向による異方性にも注意が必要です。


試作段階でのチェックと修正

変形は、量産段階で初めて顕在化することもありますが、可能な限り試作段階で対策しておくことが理想です。3Dプリンタでモックアップを作成したり、パイロット金型での成形テストを行い、変形リスクの早期発見と金型の修正に対応します。


成形品の変形を抑えるには総合力が必要

成形品の変形は、単一の原因で起きることは少なく、設計、金型、材料、成形条件など複数要因の組み合わせによって発生します。そのため、変形を防ぐには、製品設計段階から生産現場までの密な連携が不可欠です。設計者と金型技術者、成形技術者の三者が情報を共有し、問題を先回りして対処することが、安定した成形品を得るための最短ルートです。


まとめ

「変形しない成形品」はプラスチック製品の品質を左右する重要なテーマです。成形品の変形を防ぐには、以下のポイントが重要です。

  • 肉厚設計の均一化
  • 冷却ラインの最適配置
  • ゲート・流動設計の適正化
  • 成形条件の綿密な調整
  • 材料特性を考慮した選定
  • 試作によるリスク検証

これらを総合的に取り組むことで、歩留まりの向上・クレーム削減・コスト低減にもつながります。現場の知恵と経験を活かし、変形のない高品質なプラスチック製品づくりを目指していきましょう。

PAGE TOP