〜外観不良を未然に防ぐための設計と成形の最適解〜
プラスチック成形における「ヒケ(Sink Mark)」は、見た目にも品質にも大きな影響を及ぼす代表的な成形不良のひとつです。特に、家電製品や自動車内装部品のように「美観」が重要視される成形品にとっては、ヒケの発生は許されない問題です。
本コラムでは、ヒケが発生するメカニズム・主な原因・発生しやすい形状や条件、そして現場で実行可能な対策方法を、熟練職人の視点から詳しく解説します。
■ ヒケとは何か?
ヒケとは、プラスチックが成形後に収縮し、製品表面にくぼみや凹みが生じる現象を指します。特に、リブやボスの裏面、肉厚のある部分に現れやすいのが特徴です。英語では「Sink Mark」と呼ばれ、成形品の平滑性や光沢に影響を与えるため、見た目の品質を大きく損ねます。
■ ヒケの発生メカニズム
プラスチック材料は、高温の溶融状態で金型に充填され、冷却されて固化する過程で必ず収縮します。この「収縮差」がヒケの根本原因です。
とくに以下のケースで顕著にヒケが発生します:
- 局部的に肉厚が厚い部分
- 裏面にリブやボスが配置された部分
- 保圧不足や冷却不足の状態
つまり、収縮が不均一になりやすい場所や条件下でヒケが発生しやすいというわけです。
■ 主な原因と具体的な対策
【原因1】局部的な肉厚設計
肉厚が厚いと、その部分の冷却に時間がかかり、内部の樹脂が収縮して空洞になり表面が沈み込む現象が起こります。
対策:
- 肉厚は均一に設計する。
- 構造的に肉厚が必要な場合は、中空化やリブで補強する手法を検討。
- 「3mm以下推奨、最大でも5mm以下」を目安に設計する。
【原因2】リブ・ボスの配置ミス
裏面に配置されたリブやボスが肉厚部分と重なると、その裏にヒケが発生しやすくなります。
対策:
- リブやボスは製品表面に影響を及ぼさない位置に配置する。
- 肉厚部分の直上にリブを配置しない。
- リブの高さ・厚さは母材の50%以下が基本。
【原因3】保圧不足・保圧時間の不足
射出後に保圧工程をしっかり行わないと、樹脂が固まる前に内部が収縮し、ヒケが発生します。
対策:
- 保圧圧力を最適化する。
- 保圧時間を製品形状に合わせて十分に確保。
- ゲートシール(ゲートが固まる時間)に合わせて保圧時間を調整する。
【原因4】冷却不足・冷却バランスの不均一
冷却が不十分な部分では樹脂の収縮が遅れ、表面にヒケが現れやすくなります。
対策:
- 金型内の冷却回路を見直し、冷却効率の均一化を図る。
- 水路のバランス調整やインサートの冷却設計の最適化。
- 必要に応じて高熱伝導材(ベリリウム銅など)を使用する。
【原因5】材料特性の影響
材料によっては、収縮率が高くヒケが出やすい性質のものもあります。
対策:
- 成形品に応じて低収縮性の材料を選定する(例:ABS、PCは比較的安定)。
- ガラス繊維入り材料はヒケを抑えられるが、流動性や摩耗性に注意が必要。
■ ヒケの発生しやすい製品例
- 化粧パネルや筐体など、外観が求められる製品
- LED導光板や透明部品:光学性能にも影響
- 自動車の内装部品:シボ(皮シボ)面でもヒケが目立つ
こういった製品は、設計段階からヒケの予測・対策を行う必要があります。
■ 金型製作段階でできるヒケ対策
- 肉厚部分には冷却用コアピンや冷却インサートを組み込む。
- CAE解析(流動・冷却・収縮)を活用し、事前にリスク部位を予測。
- 金型トライ段階でシボの深さ・面取りを含めて最終的なヒケ評価を実施。
【まとめ】
ヒケの発生は、設計・材料・成形条件・金型冷却など、多くの要因が絡み合う結果として生じます。そのため、単一の対策では根本解決は難しく、設計段階からヒケを想定した構造と条件設定が重要です。
現場でのトライ&エラーだけでなく、CAE解析や職人の経験を組み合わせて最適化することが、ヒケのない高品質な成形品づくりのカギとなります。