~設計から生産まで、一貫した視点で「ムダ」を削る実践法~
プラスチック製品の開発・製造において、成形コストの削減は永遠の課題です。特に量産品では、わずか数円の単価差が最終的に数百万円規模のコストインパクトにつながることもあります。
では実際に、成形現場の目線で、どのようにコストを削減していけるのか? 本記事では、設計・材料選定・金型構造・成形条件・ロット運用など、各ステップで取り組める具体的な手法を紹介します。
【1】設計段階が最重要!成形性を考慮した製品設計
実は、コスト削減の8割は「設計段階」で決まると言っても過言ではありません。以下のようなポイントを押さえることで、金型の複雑化や成形トラブルを防ぎ、大幅なコストダウンが可能になります。
● アンダーカットの排除
アンダーカット(引き抜き方向に干渉する形状)はスライド機構が必要になり、金型コストが上昇。できるだけ避ける設計が望ましいです。
● 肉厚の最適化
肉厚が不均一だと、冷却不良やヒケ・反りが起きやすくなり不良率が上がります。また、過剰な肉厚は材料のムダにもつながるため、最小限で均一な肉厚設計が理想です。
● 補強リブの活用
薄肉化による強度低下を防ぐためには、リブ(補強筋)を適切に設けることで、材料削減と剛性の両立が可能です。
【2】材料選定でコストの根本を見直す
プラスチック成形の材料費は、製品コストの中でも大きな割合を占めます。以下のように材料を見直すことで、直接的なコストカットができます。
現在の樹脂 | 代替案 | メリット |
PC(ポリカーボネート) | PP(ポリプロピレン) | 透明性は落ちるがコスト約1/3に |
ABS | HIPS(耐衝撃性PS) | 衝撃性や価格面で有利 |
POM | PA(ナイロン) | コスト低減かつ高強度維持 |
また、再生材(リサイクル原料)や副資材(ガラス繊維強化グレード)を活用することで、性能維持とコスト抑制のバランスをとることも可能です。
【3】金型構造の最適化
金型は初期投資として高額ですが、設計・構造を工夫することで長期的なコストに差が出ます。
● シンプル構造にする
スライド、リフト、複雑な分割構造を避け、2プレート構造で設計することで、金型費用を数十万円単位で削減可能。
● 複数個取り(マルチキャビティ)の検討
同一製品を複数個同時に成形することで、サイクル効率を改善し、1個あたりの加工費を大幅に下げられます。
● 金型メンテナンス性
耐久性や清掃のしやすさも考慮した構造にしておくと、長期的な修理コストを抑えることができます。
【4】成形条件の見直しでランニングコスト削減
● 成形サイクルの短縮
冷却時間や保圧時間を最適化することで、1ショットあたりの時間が短縮。結果的に生産性が上がり、加工単価が下がる。
● エネルギー効率の改善
低温設定や適切なスクリュー回転数にすることで、電気代や原料の無駄使いを防げます。
● 成形条件の標準化
作業者によるバラつきを減らすことで、不良率の低減と品質安定に寄与。歩留まり向上=実質的なコスト削減につながります。
【5】生産ロットと在庫運用の最適化
少量ロットの多品種生産は一見柔軟に見えますが、実は段取り替えや在庫管理のコストが嵩むリスクも。以下の対策が有効です:
- ロット統一と生産計画の見直し:段取り時間を減らし、稼働率を向上。
- 一括購買で材料単価交渉:大量ロットでのまとめ仕入れにより材料費ダウン。
- 生産平準化とJIT導入:在庫過多を防ぎ、保管コスト削減。
【6】品質トラブルを減らす=隠れコストの削減
コストに直結しないように思えても、不良品の再成形・廃棄・納期遅れ対応などは、大きな「隠れコスト」です。トラブルの芽を設計・金型段階で摘むことが、結果としてコスト削減になります。
【まとめ】「コストダウン」は全工程の工夫の積み重ね
プラスチック成形のコスト削減には、「これさえやればOK」という万能な方法はありません。しかし、設計・材料・金型・成形条件・ロット運用のすべてに目を配り、地道に最適化を図ることで、無理のないコストダウンは実現可能です。
熟練の職人や金型メーカーとの協力体制を築き、「設計段階から成形性とコストを考える文化」を取り入れることが、今後ますます重要になってきます。