~プラスチック成形の現場から語る高品質化のためのポイント~
プラスチック成形品において「仕上げ精度」は製品品質を左右する非常に重要な要素です。わずかな凹凸やバリ(フラッシュ)、寸法誤差は、後工程での組立不良や最終製品の信頼性低下につながりかねません。
本コラムでは、現場で培った経験をもとに、プラスチック成形品の仕上げ精度を高めるための実践的な方法と注意点について、設計・成形・金型の観点から詳しく解説します。
仕上げ精度とは?
成形品の仕上げ精度とは、外観の滑らかさ、バリの有無、寸法精度、面の平滑度などを総合的に評価した「完成度」のことを指します。高精度な成形品は、加工レスで組み立て工程に移行でき、トータルコスト削減にも寄与します。
精度向上のための主要ポイント
1. 金型精度の追求
仕上げ精度を上げるうえで最も影響が大きいのが金型の加工精度です。以下の要素が鍵を握ります:
- 金型の磨き処理(ポリッシュ):表面粗さを抑えることで、成形品の光沢や手触りが向上します。
- パーティングラインの合わせ精度:ここがズレるとバリが発生しやすくなります。
- キャビティ・コアのクリアランス管理:適正なクリアランスは、寸法精度を高める決定要素です。
2. 成形条件の最適化
いくら金型が精密でも、成形条件が不安定では品質は出ません。以下の条件は特に重要です:
- 射出圧力・保圧時間の調整:樹脂の充填が不完全だと、ヒケや反りの原因になります。
- 金型温度の均一化:冷却ムラがあると表面の艶や収縮が不均一に。
- 冷却時間の最適化:短すぎれば変形、長すぎればサイクル効率が低下。
3. 使用樹脂の選定と管理
使用する樹脂の特性に応じた成形条件と金型処理が必要です。たとえば、
- ABS樹脂:寸法安定性に優れるが、光沢は出にくい。表面処理がカギ。
- PC(ポリカーボネート):高強度で光学的な透明性があるが、ヒケが出やすい。
- POM(ポリアセタール):精密ギアなどで用いられるため、温度管理が肝。
また、乾燥不足やコンタミ(異物混入)も大きな精度劣化要因となります。
仕上げ精度を落とす原因とその対策
原因 | 対策 |
金型の摩耗 | 定期メンテナンスと部品の再研磨、摩耗部位の素材見直し |
冷却不良 | 冷却水路の清掃、冷却回路の再設計 |
成形条件のバラつき | 成形機の定期キャリブレーション、成形レシピの標準化 |
材料ロットの違い | 樹脂のロット管理と試験射出での傾向分析 |
設計段階での工夫が精度を左右する
- 肉厚の均一化:肉厚差があると収縮の違いから反りが発生しやすい。
- リブの配置最適化:補強のつもりが、変形の原因になることも。
- アンダーカットの最小化:リフターやスライドで対応可能だが、仕上げにムラが出やすい。
成形後の仕上げレス(手加工ゼロ)を目指すには、こうした製品設計と金型設計の連携が非常に重要です。
現場で実践される改善事例
ある精密医療機器メーカーでは、成形品のレンズ部品で光沢ムラが発生していました。原因を調査した結果、金型温度のバラつきと成形圧の不安定が主因と判明。金型冷却回路を再設計し、成形機の設定を標準化することで、不良率を75%削減、歩留まりは90%以上へ改善されました。
まとめ:成形品の精度は「設計 × 金型 × 成形」の掛け算
プラスチック成形の仕上げ精度を高めるには、「設計段階の配慮」「金型製作時の精密な加工」「成形現場での徹底した条件管理」の三位一体の取り組みが必要です。
とくに、仕上げ工程に頼らず、“型で決める”精度管理を追求することが、最終的にはコスト削減と高信頼性の製品づくりにつながります。