アンダーカットのある形状は成形できますか?

技術紹介

~プラスチック成形における課題と解決方法~

プラスチック製品の設計において、「アンダーカット」という言葉を聞いたことはありませんか?製品の意匠や機能性を高めるために複雑な形状を求めた結果、どうしても避けられないこの“アンダーカット”ですが、成形の現場では大きな課題になることがあります。

今回は、プラスチック成形金型の熟練職人の目線から、「アンダーカットとは何か」「なぜ問題になるのか」「どうすれば成形できるのか」をわかりやすく解説しながら、設計者と現場のすれ違いを防ぎ、より良い製品づくりにつながる情報をお届けします。


アンダーカットとは何か?

アンダーカットとは、金型から製品を取り出す際に、直線的に型から抜けない形状のことを指します。たとえば、横穴や凹凸が側面にある場合や、フック形状になっている部分などが代表例です。

金型は基本的に「開いて閉じる」単純な2プレート構造が基本です。アンダーカットがあると、この単純な動きでは製品が金型に引っかかって抜けなくなってしまいます。


アンダーカットがあると何が問題になるのか?

1. 成形不可、または破損の恐れ

通常の金型ではアンダーカットがある製品をそのまま成形しようとすると、取り出し時に樹脂が引っかかって破損してしまう恐れがあります。これにより、歩留まりの悪化や金型の破損にもつながります。

2. 金型構造の複雑化

アンダーカットを解消するには「スライドコア」や「リフター」など、可動部品を追加する必要があります。これにより金型の設計が複雑になり、製作費用やメンテナンスコストも上がってしまいます。


アンダーカットを成形可能にするための主な方法

1. スライドコアの導入

もっとも一般的な解決策がスライドコアの使用です。これは金型の開閉とは別方向に動作する部品で、アンダーカット部分を避けながら製品を型から取り出す構造です。

メリット: 確実にアンダーカットを処理できる
デメリット: 機構が複雑になり、金型のコスト・保守性が上がる

2. リフターの使用

リフターは、成形品を型から押し出す際に斜め方向に動作する部品です。スライドコアよりもシンプルな場合が多く、小規模なアンダーカットに適しています。

メリット: コンパクトな構造で対応可能
デメリット: 角度やサイズに制限があり、設計精度が必要

3. 分割金型の採用

製品の構造に応じて金型を3分割以上に設計し、アンダーカット部分を分割部品で対応します。複雑な製品に有効な手段ですが、量産時の成形サイクルに影響が出る可能性も。


設計段階での工夫がカギ

アンダーカットは、事前の設計段階でいかに意識しておくかが重要です。現場にとっては、アンダーカットのない形状に置き換えてもらえると作業効率が飛躍的に向上します。

以下のような設計変更が可能か検討してみてください:

  • アンダーカット部分を別部品に分割する
  • 差し込み構造を反転させて抜けやすい形状にする
  • アンダーカットを極力浅く、小さく設計する

アンダーカット製品の実例とその解決策

たとえば、ある家電製品のバッテリーケース部分。内部に固定用のフックがあり、完全にアンダーカット形状でした。従来はスライドコアを使用していましたが、構造が複雑で故障も多かったため、設計側と相談のうえ、フックをバネ性のある別部品に分離。コストと耐久性の両面で大幅な改善につながりました。


まとめ:アンダーカットは“悪”ではない、が、工夫が必要

アンダーカットは設計上どうしても避けられない場面もありますが、事前に金型や成形現場のことを理解し、適切な構造設計と相談があれば、問題なく量産が可能です。

また、製品機能と成形のしやすさはトレードオフの関係でもあります。現場の職人としては、設計者との密なコミュニケーションを通じて、最適な解決策を見つけることが重要だと考えています。

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