プラスチック製品を設計する際、「こんな形にしたい」「こういう機能を持たせたい」といったアイデアが数多く出てくるものです。しかし、実際に金型を使って成形する工程では、自由な形状が必ずしも実現できるわけではありません。
私たち金型成形の現場では、形状によって金型構造に大きな影響が出たり、量産性が低下したり、製品不良が起こりやすくなったりするため、「成形品の形状」に関する制約には常に気を配っています。
今回は、成形品のカタチに関する代表的な制約事項とその理由、さらに設計段階で注意すべきポイントを、熟練職人の視点でわかりやすく解説していきます。
なぜ成形品の形状に制約があるのか?
射出成形に代表される金型を用いたプラスチック成形では、樹脂を加熱して溶かし、金型に流し込んで冷却し、固めて取り出すという工程を踏みます。この一連の流れの中で、以下のような理由から形状に制約が生まれます。
- 金型からスムーズに製品を取り出すため(離型性)
- 樹脂が型内に均等に行き渡るようにするため(流動性)
- 強度や寸法の安定性を保つため(変形や反りの防止)
- 金型構造が複雑になりすぎないようにするため(コストとメンテナンス性)
これらの理由から、設計者が自由に形を決めるだけではなく、成形性や量産性を意識した形状設計が不可欠になります。
成形品の形状に関する主な制約
1. アンダーカット(抜き勾配)
最もよくある制約が、「アンダーカット」です。これは、製品の形状の一部が金型からそのままでは抜けない形になっている状態を指します。
対処法:
- 抜き勾配(傾斜)を設けて、離型しやすくする
- スライド構造や可動コアで金型を複雑にする(コスト増)
実務上のポイント:
1度~3度程度の抜き勾配は、デザイン段階で必ず盛り込むのが一般的です。
2. 肉厚の不均一
肉厚がバラバラな設計は、ヒケ(収縮によるへこみ)や反り、成形不良の原因になります。特に厚肉部分は、冷却に時間がかかり変形の原因になります。
推奨される設計:
- 肉厚はできるだけ一定に(2〜4mm程度が標準)
- 必要な場合はリブで補強して強度を持たせる
3. シャープな角やエッジ
シャープな角は樹脂がうまく流れず、**ウェルドラインやショートショット(充填不良)**が起きやすくなります。
対処法:
- コーナーに**R(丸み)**をつけて流れをスムーズにする
- 角ばったデザインは最低限の強度確保に注意
4. 深さのある形状
深い筒状や縦穴などは、離型困難で、コアが折れやすい・残留応力が溜まるなどの問題が起こりがちです。
解決策:
- 深さに対して適切なテーパをつける
- コアピンやスライド構造を活用
5. 細かすぎるディテール
装飾的な意匠や微細な凹凸は、金型加工の精度限界や樹脂の流動性によって再現できない場合があります。
注意点:
- 金型加工方法(放電加工、レーザー加工など)を考慮する
- 使用する樹脂の流動特性を事前に確認すること
実際の現場でよくある設計ミス
私の経験上、製品設計と金型設計が乖離している場合に、量産段階でトラブルが多発します。
- 設計者が「3D CADで見たら問題なさそう」と思っても、実際の成形では抜けない形状だったり
- 強度を高めようとして厚肉設計にしたらヒケや反りが酷くて不良率が上がる
- 意匠優先で複雑な装飾をつけたが、金型加工コストが想定の倍以上に…
こうした問題を防ぐためには、設計段階から成形・金型の知見を入れることが極めて重要です。
設計者と金型職人の連携がカギ
最近では、CADデータのやり取りが主流になり、設計と製造の現場が分断されるケースも増えています。しかし、最終的に形として仕上がるのは「現場」であることを忘れてはいけません。
職人の視点で言えば、「図面ではなく、成形しやすい現物を作ること」が目的。だからこそ、金型製作前のデザインレビューやモールドフロー解析などを通して、設計と現場の認識をすり合わせておくことが非常に大切です。
まとめ
「成形品のカタチに制約はありますか?」という問いに対しての答えは明確です。
「あります。ただし、知っていれば乗り越えられます」
- アンダーカットには抜き勾配を
- 肉厚不均一にはリブ設計を
- 鋭角な形状にはR付けを
- 深さがある形状にはテーパやコアピンを
- 微細な造形には加工技術と樹脂選定を
設計者と金型職人がしっかりとコミュニケーションを取り、製品設計の段階から成形性を意識しておくことで、量産しやすく、高品質で、不良の少ない製品を生み出すことができます。
製造業における成功の鍵は、「いい設計」と「いい金型」と「いい現場」の三位一体。ぜひ、形状の制約を正しく理解し、ものづくりに活かしてください。