耐熱性のあるプラスチック材料にはどんなものがありますか?

成型基礎知識

~高温環境で活躍する高機能樹脂の選び方と特徴~

プラスチックと聞くと「熱に弱い」というイメージを持つ方も多いかもしれませんが、実際には高温下でも形状や性能を維持できる「耐熱性プラスチック」が数多く存在します。自動車や航空機、電気・電子、医療機器など、過酷な環境下で使用される製品には、一般的なプラスチックでは耐えられないため、耐熱性のある特殊な材料が使用されます。

この記事では、成形加工の現場で実際に使われることの多い耐熱性プラスチック材料について、種類別に特徴と用途、成形時の注意点を熟練職人の目線でわかりやすく解説します。


1. 耐熱性プラスチックとは?

耐熱性プラスチックとは、高温下でも機械的強度、寸法安定性、電気特性などの性能が著しく低下しない樹脂を指します。耐熱温度の目安は一般的に120℃以上。200℃以上の環境に耐えるものは「スーパーエンプラ」と呼ばれ、さらに高度な要求に対応します。


2. 主な耐熱性プラスチック材料とその特徴

以下は、耐熱性に優れた代表的なプラスチック材料です。

① PPS(ポリフェニレンサルファイド)

  • 耐熱温度:連続使用温度約200~240℃
  • 特長:耐薬品性・寸法安定性に優れ、難燃性あり。吸水率が低く、金属代替に適する。
  • 用途:自動車部品(スロットルバルブ、ポンプ部品)、電装品、ヒーター周辺部品。

② PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)

  • 耐熱温度:連続使用温度約260℃
  • 特長:スーパーエンプラの代表格。耐熱性、機械強度、耐薬品性、耐摩耗性すべて高水準。
  • 用途:航空機部品、医療機器(滅菌対応)、半導体製造装置部品。

③ PA46(ポリアミド46)

  • 耐熱温度:連続使用温度約170~190℃
  • 特長:ナイロン系でありながら高耐熱。剛性が高く、高速回転部品に適する。
  • 用途:エンジン周辺部品、ギア、軸受。

④ PBT(ポリブチレンテレフタレート)

  • 耐熱温度:連続使用温度約140℃前後
  • 特長:結晶性ポリエステルで、寸法安定性良好。電気絶縁性が高く、成形性も良い。
  • 用途:コネクタ、スイッチ、電装モジュール。

⑤ PC(ポリカーボネート)

  • 耐熱温度:120~135℃
  • 特長:高透明性と耐衝撃性。加工しやすく光学部品にも対応。
  • 用途:ヘッドライトカバー、電子機器筐体、光学ディスク。

⑥ LCP(液晶ポリマー)

  • 耐熱温度:240℃前後
  • 特長:高流動性で超薄肉成形が可能。高周波特性も優れ、電子基板用途に最適。
  • 用途:スマホ部品、基板コネクタ、車載センサー。

3. 耐熱性樹脂を選ぶ際のポイント

耐熱温度の「種類」に注意!

耐熱温度には「連続使用温度」と「短時間耐熱温度」があります。連続使用温度とは、長期間使用しても性能が落ちない温度のこと。高温の中でも長期使用する用途には連続使用温度で比較するのがポイントです。

成形性の違いを把握しておく

高耐熱材料は、一般樹脂と比べて成形温度が高いため、

  • 射出機の耐熱性
  • 金型材質(焼き入れ鋼など)
  • ガス対策(ベント構造、ガス抜きピン)

などの事前準備が必要です。PPSやPEEKのようなスーパーエンプラでは、射出温度が350℃以上になることもあるため、専用スクリューや金型コーティングも検討が必要です。


4. 耐熱樹脂の使用事例(現場の声)

自動車業界の変化

EV化が進み、バッテリー・モーター周辺は常時150℃以上の環境になります。そのため、従来のPA66やABSでは対応しきれず、PPSやPBTへ置き換えが進んでいます。

医療業界でのPPS・PEEKの利用拡大

繰り返しオートクレーブ滅菌が必要な医療器具においては、金属に代わる耐熱性プラスチックとしてPEEKが活躍。軽量化・非磁性・高耐熱性が評価されています。


5. 金型職人から見た、耐熱樹脂成形の注意点

  • 成形温度が高いため、型温コントロールが重要
  • 成形不良(焦げ・ガス焼け)が起きやすい → 金型のベント設計が鍵
  • 高温ガスで金型が傷む → 定期的な金型メンテナンスが不可欠
  • 収縮率が低く寸法精度は出しやすいが、流動性が低い材料はゲート設計を工夫する必要あり

まとめ:耐熱プラスチックは高付加価値製品の鍵

耐熱性のあるプラスチックは、単に「熱に強い」だけでなく、製品の信頼性・安全性・軽量化・小型化を支える重要な素材です。近年では、脱金属・カーボンニュートラルの流れの中で、これらの高機能樹脂のニーズはますます高まっています。

一方で、耐熱性樹脂の成形には高度なノウハウと設備が必要。設計者・金型製作・成形現場が一体となった材料選定と条件設定が、成功の鍵になります。

現場での具体的な成形条件表や、材料選定の支援資料が必要な場合は、お気軽にご相談ください。

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