~高品質なプラスチック製品を支える見えない技術~
プラスチック射出成形において、温度管理は製品品質と生産効率を左右する最も重要な要素のひとつです。しかし、多くの現場では「温度」は数値の一つとして軽視されがちです。“適温”という目に見えない状態を、どれだけ正確に、どれだけ安定して保てるかが、寸法精度・外観品質・サイクル時間に直結します。
この記事では、成形時の温度管理がなぜこれほどまでに重要なのか、そして具体的にどのようなポイントに注意すべきか、実際の成形現場の目線でわかりやすく解説します。
なぜ温度管理がそれほど重要なのか?
① 樹脂の物性を最大限に引き出すため
プラスチック樹脂にはそれぞれ、適した加工温度範囲が存在します。温度が高すぎれば分解・ガス発生・バリが起き、低すぎれば流動不足・ショートショット・ウェルドラインなどの成形不良が発生します。
② 成形品の寸法精度と収縮率に直結
成形時の金型温度と冷却時間が安定していないと、製品の収縮率が変動し、寸法誤差が発生。特に高精度が求められる自動車部品・医療部品では、±0.01mmの違いが不良品扱いになります。
③ サイクル時間とコストに影響
適正温度管理によって冷却時間が最適化され、サイクル時間の短縮=生産性の向上=コスト削減が実現します。
温度管理が必要な主な3つのポイント
1. 樹脂のシリンダー温度(溶融温度)
- 目的:材料を適切に溶かし、滑らかに金型へ充填させる。
- 管理項目:ホッパー → シリンダーゾーン1~3 → ノズル温度。
- 注意点:設定温度だけでなく、実際の樹脂温度を測定することが重要。
・ 過熱すぎると…:ガスや焦げが発生
・ 温度不足だと…:充填不良・ウェルドラインが増加
2. 金型温度(成形面の温度)
- 目的:製品の表面品質と寸法精度の安定。
- 管理方法:温調機による冷却水の温度制御やヒーターの併用。
- 注意点:金型表面温度と冷却配管内の温度は異なるため、金型表面へのセンサー設置が理想。
✅ 金型が冷えすぎると…:表面にシボが出にくい・ウェルドライン目立つ
✅ 熱すぎると…:サイクルが延びて生産性ダウン
3. 冷却水の流量と温度
- 目的:冷却効率の最大化と温度分布の均一化。
- 管理方法:流量計でモニタリング、定期的な配管スケール除去。
- 注意点:配管詰まりやエア噛みによる冷却不良は不良品の元。
✅ ポイント:金型の片側だけが冷えすぎていると、反りや曲がりの原因に。
温度管理ミスによる代表的な不良事例
不良内容 | 温度原因 |
ウェルドライン | 樹脂温度が低すぎて融合しきれていない |
シルバーストリーク | 樹脂が分解・ガス発生(加熱過多) |
寸法ばらつき | 金型温度・冷却時間の不安定 |
焦げ・バリ | 射出温度が高すぎ+保圧時間が長すぎる |
成形不良(ショート) | 樹脂が固まりかけて流れ不足 |
熟練職人の温度管理テクニック5選
- 赤外線温度計・熱電対センサーを併用する
→ 設定温度と実測温度の“差”を補正。 - 成形前・成形中・成形後の温度変動を記録する
→ トレーサビリティ+条件出しに必須。 - 材料ロットごとに微調整する
→ 同じ型でもロットによって最適温度が微妙に変わる。 - 朝イチの立ち上げ時は慎重に昇温・除湿する
→ 特に吸湿性の高いエンプラは予熱が重要。 - 金型メンテナンス時に冷却ラインの洗浄を忘れない
→ スケールが堆積すると冷却効率が低下。
温度管理とIoT・AIの活用
近年では、成形機・温調機と連携した温度データのリアルタイム監視が可能となり、異常傾向をAIが自動検出する技術も登場しています。
- 異常検知アラート
- ショットごとの金型温度ログ保存
- 過去データとの比較解析
これにより、「不良が起きてから対処」から「不良が起きる前に対処」する“予知保全”の体制が整いつつあります。
まとめ:温度を制する者が成形を制す
温度管理は、決して機械任せにしてはいけません。人の目・手・経験と、最新のデジタル技術を融合させることが、真の品質と生産性を両立する道です。
特に、エンプラ・スーパーエンプラなど高機能樹脂を扱う現場では温度の影響が極端に表れるため、温度制御技術は企業競争力そのものと言えるでしょう。
日々の成形条件に「温度を記録する」「温度を疑う」「温度を見直す」意識を持つだけで、不良率は大幅に低下し、安定した量産体制の構築が可能になります。