~初心者にもわかる、製造の基本と技術の裏側~
射出成形(インジェクションモールディング)は、プラスチック製品の量産において最も一般的かつ重要な成形方法の一つです。
私たちの日常生活にある家電、車部品、文具、医療機器、工業部品の多くが、実はこの射出成形によって作られています。
しかしその仕組みは、単なる「溶かして流す」作業ではなく、精密な制御と金型技術が融合した、高度なものづくりプロセスです。
この記事では、射出成形の一連のプロセスと仕組み、そしてそれぞれの工程で重要となるポイントを詳しく解説します。
射出成形とは何か?
射出成形とは、熱で溶かしたプラスチック樹脂を金型に高圧で射出し、冷やして固めて取り出すという成形法です。
液状になった樹脂が金型内の空間(キャビティ)に流れ込み、冷却・凝固されることで、正確な形状の製品を高速で大量に生産できます。
この成形法の最大のメリットは次の3点です:
- 複雑な形状でも一体成形が可能
- 精度の高い寸法管理ができる
- 自動化・量産に向いており、コスト効率が高い
射出成形の基本構成と用語
射出成形機と金型は以下のような構成で動作します。
射出成形機の主な構造:
- ホッパー:プラスチック原料(ペレット)を供給する部分
- シリンダー・スクリュー:加熱・混錬しながら樹脂を前に送る
- ノズル:溶けた樹脂を金型に注入する口
- 金型(モールド):製品の形を決める金属製の型
- 可動盤・固定盤:型締力を加え金型を閉じる部分
- エジェクタ機構:製品を金型から取り出す仕組み
射出成形の一連のプロセス(成形サイクル)
① 型締(Clamping)
まず、射出成形機の可動盤と固定盤が金型をしっかり閉じるところから始まります。
この時、数十〜数百トンの型締力をかけることで、成形中に樹脂が漏れ出さないよう密閉します。
🔧【ポイント】
金型のガイドピン・型合わせ精度が悪いと、バリ(余分な樹脂)が出てしまう。
② 射出(Injection)
続いて、スクリューで加熱されて溶融状態になったプラスチック樹脂が、ノズルから金型内へ高速・高圧で射出されます。
この時の圧力は100~200MPa(1000~2000kgf/cm²)と非常に高く、流動性やゲート設計が重要です。
🔧【ポイント】
射出速度が速すぎると「フラッシュ」、遅すぎると「ショートショット(樹脂不足)」が起こります。
③ 保圧(Packing / Holding)
金型内に樹脂が充填された後、冷える際の樹脂の収縮を補うために圧力をかけ続ける工程が保圧です。
この工程は製品の寸法精度、ウェルドライン強度、表面品位に大きく関係します。
🔧【ポイント】
適切な保圧時間・圧力でないと、ヒケや気泡、寸法不良の原因になります。
④ 冷却(Cooling)
次に、金型内部の冷却水配管により、樹脂を金型温度まで一気に冷やして固めます。
製品の大きさや形状によって冷却時間は異なりますが、この工程がサイクルタイムの半分以上を占めることもあります。
🔧【ポイント】
冷却効率を上げるために、冷却回路設計や金型材質(NAK、SUS等)が重要になります。
⑤ 型開(Mold Opening)
製品が十分に固まった後、金型がゆっくりと開かれます。
この時、製品がどちら側の金型にくっつくか(固着)を考慮して、成形方向とエジェクタ配置が設計されています。
⑥ 取出し・エジェクション(Ejection)
エジェクタピンなどの押出機構によって、成形品が金型から押し出されます。
ここで製品が破損しないよう、均等な力でスムーズに取り出す工夫が必要です。
🔧【ポイント】
エジェクタの位置が不適切だと、反りや歪みの原因になります。
射出成形における重要な仕組みと技術要素
● 金型設計
- キャビティ配置、流動解析、ガス抜き設計(ベント)、冷却ライン設計などが製品品質に直結します。
● 成形条件の設定
- 温度(シリンダー、金型)、射出速度、保圧時間、冷却時間などのパラメータ調整が、微細な仕上がりを左右します。
● 材料の特性理解
- 樹脂によって流動性、収縮率、熱変形温度などが異なるため、適した条件設定が必要です。
射出成形の応用例と進化
近年では、以下のような高度成形技術も注目されています:
- 多色成形(ツインショット)
- インサート成形(金属との複合)
- ガスアシスト成形(中空構造)
- 薄肉成形(スマホや医療機器向け)
- マイクロ射出成形(μレベルの微細形状)
これらは精密な金型技術と高度な成形制御の融合によって実現されており、日本のものづくりの強みの一つです。
まとめ:射出成形は「流す」技術ではなく「創る」技術
射出成形は一見シンプルに見えて、流体力学・熱力学・材料工学・機械制御など複数の分野が関わる複雑な技術です。
それぞれの工程に対して適切な理解と管理が求められ、金型の品質や操作ノウハウが製品品質を決定づけます。
これから射出成形を導入したい企業や、現場教育に力を入れたい方は、「仕組み」と「理論」を理解することが、現場改善の第一歩となります。