~金型の寿命と成形品質を守る最適なメンテナンスサイクル~
プラスチック成形の現場において、「金型の品質=製品の品質」と言っても過言ではありません。
そのため、金型のメンテナンス(保守管理)は、成形品の安定供給と品質維持の要となる重要な業務です。
しかし、「どのタイミングで」「どの程度の頻度で」「どこまで実施するか」といった判断は、現場によってまちまちです。
本記事では、金型のメンテナンス頻度の考え方、実際の事例、ポイントについて、現役の金型職人の視点から詳しく解説します。
なぜ金型のメンテナンスが必要なのか?
金型は高精度で作られた精密工具でありながら、成形中は以下のような過酷な環境にさらされています:
- 数百℃の溶融樹脂による熱ダメージ
- 数百トンの型締力や射出圧による機械的負荷
- 成形中に発生するガスや揮発物による腐食や汚れ
- 冷却水による水垢・サビのリスク
- 長時間稼働による摺動部の摩耗・油切れ
これらの蓄積により、金型内部では次第に摩耗・変形・詰まりなどが起こり、最終的には成形不良・寸法ズレ・バリ発生・焼付きといった不具合が出てきます。
このようなトラブルを未然に防ぎ、安定生産を維持するために、定期的なメンテナンスは不可欠なのです。
金型メンテナンスの種類とタイミング
金型のメンテナンスは、大きく以下の3つに分類されます。
1. 日常点検(ショット間または日単位)
- 作業者やオペレーターが実施
- 成形終了後の清掃(キャビティ、コア、ゲート、ベントなど)
- 異常の目視点検(バリ、汚れ、摩耗など)
- 可動部への注油
2. 定期メンテナンス(数千~数万ショットごと)
- メンテナンス担当者、金型技術者が実施
- 金型分解点検(可動部、冷却系、エジェクタ系など)
- 消耗部品(スライド、ピン、Oリング等)の交換
- バリ修正、研磨、ガス汚れ除去、腐食対策など
3. オーバーホール(数十万ショット単位)
- 金型寿命の中間点、長期使用後に実施
- 全分解、部品交換、精度再調整
- 金型再研磨、冷却管の洗浄や再加工など
メンテナンス頻度はどのくらいが理想?
金型の使用状況によって適切なメンテナンス頻度は異なりますが、目安となる基準を以下に示します。
使用ショット数 | メンテナンス内容 | 頻度の目安 |
毎日・1回/ロット | 日常点検・清掃 | 成形ごとに実施 |
10,000~30,000 | 軽メンテ(清掃・注油・点検) | 約1~2週間ごと(中ロット) |
50,000~100,000 | 定期メンテ(分解清掃) | 月1回程度(高稼働型) |
200,000~500,000 | オーバーホール | 年1回目安または寿命判断時 |
※条件によってはショット数ではなく、成形時間、サイクル数、材料の種類によって調整が必要です。
メンテナンス頻度に影響を与える主な要因
以下の条件によって、金型のメンテナンスサイクルは短くも長くもなります:
- 使用樹脂の種類:ガスや腐食性が強いPBT、PVCなどは頻繁なメンテが必要
- 成形温度:高温条件では冷却系のスケールが発生しやすい
- 成形サイクル時間:高速成形では摩耗が早く進行する
- スライド・リフターの有無:可動部が多いほど注油・摩耗管理が重要
- 成形品の品質要求:寸法精度や表面品位の厳しい製品は短周期管理が必要
金型メンテナンス管理のベストプラクティス
1. ショット数による記録管理
→ 成形機と連動してショット数を自動カウントし、メンテ時期を通知。
2. メンテナンス履歴の記録(kintoneなど)
→ いつ・誰が・どの内容を実施したかを可視化し、トラブル分析や再発防止に役立てる。
3. 交換部品リストの整備
→ 消耗部品は事前に在庫確保し、短時間での復旧が可能な体制を整える。
4. チェックシートの運用
→ 点検漏れを防ぐための作業フローを標準化。
メンテナンス不足が招くリスク
メンテナンスを怠ると、以下のようなリスクが高まります:
- 突然の金型破損による生産停止
- バリや寸法不良による大量不良品発生
- 緊急修理でのコスト・納期ロス
- 金型寿命の大幅な短縮
トラブルは「ある日突然起きる」のではなく、「小さな劣化の蓄積」で起きるのです。日常からのメンテナンスが、そのリスクを大きく低減させます。
まとめ:金型は「使いながら育てる」資産である
金型は、ただ使うだけではなく、「育てる」対象です。
最適な頻度でのメンテナンスを行うことで、金型のパフォーマンスは長期にわたり安定し、トータルのコスト削減にもつながります。
特に、自社でのメンテ体制が整っていない場合は、金型メーカーとの保守契約や定期点検プランの導入も一つの選択肢です。
金型のメンテナンスは、製品品質、コスト、納期、顧客満足…すべてを支える土台。
だからこそ、「いつやるか」ではなく、「ルールとしてやる」仕組みづくりが必要です。