~ものづくりの精度と効率を支える「金型製作」の工程とは~
プラスチック射出成形における製品づくりの出発点は、「金型製作」にあります。金型は単なる“型”ではなく、高精度・高耐久の加工ツールとして、製品の出来を決めるカギを握っています。
では、その金型がどのような流れで製作されていくのかご存じでしょうか?
本記事では、プラスチック成形金型の製作工程を段階ごとに解説しながら、それぞれのポイントと注意点、近年の技術動向にも触れていきます。
1. 打ち合わせ・仕様の決定
金型製作の最初のステップは、製品設計担当者との打ち合わせです。
- 製品の用途や材質、形状、寸法精度、公差、数量などをヒアリング
- 成形方法(射出成形、インサート成形、2色成形など)を確認
- 成形機の仕様(型締力、金型サイズ、金型取り付け方向など)も事前に把握
この段階で仕様の漏れや認識違いがあると、後工程で大きな修正コストが発生します。
2. 製品設計(3Dデータ)
金型製作の前提として、製品そのものの3Dデータ(CADモデル)が必要です。
近年では3D CADが主流で、金型設計にスムーズに取り込める形式が求められます。
- 金型製作向けに製品データを確認し、アンダーカットの有無や抜き勾配をチェック
- 必要に応じて製品形状の一部調整(成形性を考慮)も提案
3. 金型設計(3D CAD/CAE活用)
製品データをもとに、金型設計に入ります。この工程は非常に重要で、製品の品質や生産効率に大きな影響を与えます。
設計内容の一例:
- キャビティ・コアの分割設計
- スライド機構やリフターの配置
- ゲート位置、ランナー構造、冷却回路の設計
- エジェクターピンの配置、離型構造の検討
- 空気抜き(ベント)の位置設計
CAE流動解析(樹脂の流れをシミュレーション)を用いて、ヒケ・バリ・ウエルドライン等のリスクも事前に検証します。
4. 部品加工(機械加工)
設計が完了したら、金型部品の加工に入ります。熟練の加工技術と最新設備が求められる工程です。
主な加工法:
- マシニングセンタ:主に平面・ポケット加工
- 放電加工(EDM):複雑な形状や深穴、文字彫刻など
- ワイヤーカット:高精度の抜き型やエッジ加工
- 研磨加工:仕上げ面の精度出し、光沢処理
±数ミクロン単位の精度が要求されるため、加工プログラムの調整や温度管理も極めて重要です。
5. 部品の仕上げ・組立
加工された各部品は、仕上げ工程を経て金型として組み立てられます。
- 接触部の摺り合わせ(ラッピング)
- ガイドピン・ブッシュの圧入
- スライド機構の動作確認
- エジェクターピンの動き・戻りバネの調整
- 漏水チェック(冷却水回路)
この工程では、職人の手仕事と感覚が問われる場面が多くあります。
6. 試作・トライ成形(T1~)
金型が完成したら、**実際の成形機にセットして製品を成形する試作(トライ)**を行います。
- 成形条件(温度、圧力、速度、冷却時間など)を調整
- 成形品を測定・評価し、金型の不具合をチェック
- 必要に応じて金型を微調整(バランス調整、ゲート変更、ベント追加など)
トライの流れ:
- T1(初回トライ):形状確認・成形性確認
- T2:修正反映、品質精度確認
- T3:量産条件に近い設定での安定性検証
7. 金型納品・量産移行
トライが完了し、金型が量産条件を満たしたら納品・引き渡しとなります。
- 金型管理シート、メンテナンス要領書を添付
- 保守部品の在庫提案も含めるとベター
その後はユーザー側の工場で量産開始。必要に応じて、金型メンテナンスや修理対応も行います。
8. 金型製作の期間と費用
内容 | 目安期間 | 備考 |
小型製品用金型 | 約20~30営業日 | 単純構造・1キャビティ型など |
中~大型金型 | 約45~90営業日 | 多キャビティ・複雑形状 |
費用感 | 50万円~数千万円以上 | 製品サイズ・構造・精度で変動 |
9. 最新トレンド:デジタル化と金型DX
最近では、以下のような技術が金型製作に導入されています:
- 3Dプリンタによる樹脂型/金属型の試作
- 金型製作管理のデジタルツール(kintoneやクラウド型管理)
- 加工設備のIoT化で稼働監視・トラブル予測
- 金型寿命のAI予測とトレーサビリティ管理
これにより、納期短縮・品質向上・人手不足対策が進んでいます。
まとめ:金型製作は精密と信頼の連携プレイ
金型製作は、「企画 → 設計 → 加工 → 組立 → トライ → 量産」という複数の工程が密接に連携する、まさに「チームものづくり」です。
職人の経験と新しい技術の融合により、短納期・高精度・高耐久の金型づくりが実現しています。
金型はまさに「量産のマスターキー」。その製作プロセスを正しく理解することは、成形業界で成功するための第一歩となるでしょう。