~熟練職人が語る、製品品質を左右する金型のしくみ~
プラスチック射出成形の世界において、金型は製品そのものを形作る「心臓部」です。どれほど高性能な射出成形機や高品質な樹脂材料を用いても、金型の設計と構造が適切でなければ、求める製品品質は実現できません。
本記事では、長年現場で金型製作に携わってきた職人の視点から、プラスチック成形金型の基本構造と各部品の役割について解説します。
1. 金型の基本構造とは?
プラスチック射出成形用の金型(以下、成形金型)は、基本的に以下のようなパーツで構成されています。
金型の主な構造要素(基本構成)
名称 | 役割 |
キャビティ側(固定型) | 製品の表面を形成する。射出成形機に固定される側。 |
コア側(可動型) | 製品の裏面(凹部)を形成。成形後、型が開き、製品を突き出す側。 |
スプルーブッシュ | ノズルから樹脂を受け取り、ランナーに導く入口。 |
ランナー | 溶融した樹脂を複数のキャビティへ均等に配分する通路。 |
ゲート | 製品へ樹脂を流し込む最終入口。ゲート設計により充填の均一性が決まる。 |
冷却回路(冷却管) | 金型を冷却し、樹脂を固化させる。サイクルタイム短縮にも重要。 |
エジェクター装置 | 成形後、製品を金型から取り出すための突き出し機構。 |
ガイドピン・ブッシュ | 型の開閉時にズレを防ぎ、位置合わせ精度を確保する機構。 |
2. 固定型(キャビティ)と可動型(コア)
金型は「固定型(キャビティ)」と「可動型(コア)」の2つのブロックから構成され、製品の形状を挟み込むように成形します。
型が閉じられた状態で樹脂が射出され、冷却後に型が開くと製品が取り出されます。
- キャビティ側(固定型):
製品の「見える側」を形成するため、化粧面や光沢処理がされることが多いです。 - コア側(可動型):
製品の内側や裏面を形成し、エジェクターによって成形品が押し出されます。
3. 樹脂の流路:スプルー、ランナー、ゲート
成形材料である樹脂は、次のルートを通って製品の形に充填されます。
- スプルー:ノズルから金型に流し込まれるメインの入り口
- ランナー:複数の製品キャビティへ分配するための通路
- ゲート:実際の製品キャビティへの最終的な導入口
それぞれの太さ・形状・位置が、流動性や充填バランス、バリやヒケの発生に大きく関わるため、緻密な設計が必要です。
4. 冷却機構:成形サイクル短縮と品質安定のカギ
金型には冷却用の水配管(冷却回路)が複雑に設けられており、樹脂が成形後にすばやく冷えて固まるよう制御されます。
- 冷却不良が起こると?
→ ヒケ・変形・寸法精度の低下が発生します。
→ 成形サイクルが長くなり、量産効率が低下します。
熟練者の声:「冷却設計が甘い金型は、どんな名人でも不良と戦う羽目になる」
5. エジェクション機構:製品の取り出しを担う
樹脂が固まり、型が開いたあとに成形品を金型から取り出すのが「エジェクター機構」です。
主に以下のような方式があります:
- エジェクターピン:ピンで押し出す、最も一般的な方式
- エアブロー:空気の力で製品を外す方式(薄肉・小型に多い)
- プレート式:平面で押し出す方法、大型成形品に使用
エジェクターピンの位置が不適切だと、製品にキズが付く恐れがあります。
6. 金型設計でよくあるミスと改善ポイント
よくあるミス | 改善のヒント |
ヒケの発生 | 肉厚均一化、冷却設計の見直し |
ガス焼け | エアベントの設計強化 |
バリの発生 | 金型合わせ面の精度改善 |
製品が外れにくい | エジェクターピン位置の再検討 |
まとめ:金型構造を知ることは、高品質への第一歩
プラスチック成形において、金型の構造と設計は製品品質・生産性の根幹です。
どんなに自動化が進んでも、職人の目と経験が活きるのが金型の世界。
今後は3D設計、CAE解析、金型IoTなど新技術との融合がさらに求められていくでしょう。
あなたがこの世界に興味を持ったなら、まずは「金型の構造を理解すること」から始めてみてください。
一つ一つの部品が、ものづくりを支える大切なピースなのです。