プラスチック成形において、金型の温度管理は成形品質を左右する重要な要素です。適切な温度管理ができていないと、成形不良の発生率が高まり、製品の品質が低下してしまいます。本記事では、金型の使用温度範囲とその影響について詳しく解説します。
1. 金型の温度が成形に与える影響
金型の温度は、樹脂の流動性や冷却速度、成形サイクルに影響を与えます。適切な温度管理を行うことで、成形不良を防ぎ、高品質な製品を安定的に生産することができます。
1-1. 樹脂の流動性への影響
金型温度が適切でない場合、以下のような問題が発生します。
- 温度が低すぎる → 樹脂の流動性が悪くなり、ショートショットが発生
- 温度が高すぎる → 樹脂の劣化やバリの発生、冷却時間の増加
1-2. 冷却速度とサイクルタイム
金型温度は製品の冷却速度にも影響します。冷却が不十分だと、ヒケや寸法精度の問題が発生しやすくなります。
- 低温金型 → 冷却が早く、サイクルタイムが短縮されるが、ヒケのリスクが高まる
- 高温金型 → 冷却が遅くなるが、樹脂の結晶化が安定し、変形が少ない
1-3. 成形不良の発生リスク
適切な金型温度管理を行わないと、以下のような不良が発生する可能性があります。
- ウェルドラインの悪化(低温時)
- 焼けや分解(高温時)
- ヒケの増加(冷却不足)
- 反りや歪み(温度ムラ)
2. 樹脂材料ごとの最適な金型温度範囲
樹脂の種類によって、適切な金型温度範囲が異なります。以下は代表的な樹脂とその適正温度範囲です。
樹脂名 | 金型温度範囲(℃) | 特徴 |
PP(ポリプロピレン) | 20〜60 | 低温で成形可能、収縮率が高い |
PE(ポリエチレン) | 20〜70 | 柔軟性が高く、低温成形に適する |
ABS | 40〜80 | 外観品質が重要な場合は高めに設定 |
PC(ポリカーボネート) | 80〜130 | 高い透明性を得るためには高温が必要 |
POM(ポリアセタール) | 80〜120 | 低温すぎるとウェルドラインが悪化 |
PA(ナイロン) | 80〜140 | 高温が必要、吸湿性に注意 |
PMMA(アクリル) | 50〜90 | 透明度を維持するため適正な温度管理が必要 |
PBT(ポリブチレンテレフタレート) | 80〜140 | 高温成形が必要、結晶化を促進 |
PPS(ポリフェニレンサルファイド) | 130〜160 | 高温耐性があり、精密成形向き |
3. 金型温度管理の方法
3-1. 温度調整機の活用
金型温度を安定させるために、温度調整機(モールド温調機)を使用するのが一般的です。
- 水温調整機: 80℃程度までの制御が可能
- オイル温調機: 80℃以上の高温管理が可能
3-2. 冷却ラインの設計
金型内部には冷却水路が配置されており、効率的な温度管理を行うことが求められます。
- 均一な冷却水路配置: 温度ムラを防ぎ、変形を抑制
- 適切な流速と温度: 低すぎると冷却不足、高すぎると熱変形の原因
3-3. 温度センサーの設置
成形中の温度管理には、温度センサーを利用してリアルタイム監視を行うことが重要です。
- 型内温度測定: 実際の成形条件を把握
- 表面温度測定: 冷却効率の最適化
4. まとめ
金型の使用温度範囲を適切に管理することは、プラスチック成形において高品質な製品を安定して生産するために不可欠です。樹脂の種類ごとの適正温度を把握し、温度調整機や冷却ラインを適切に活用することで、不良率を低減し、成形効率を向上させることができます。