プラスチック成形品を新規に発注する際、最初に課題となるのが「ロット数によるコスト構造の違い」です。発注数量が多い方が単価が安くなることは直感的に理解できますが、実際にはどのようなコスト要素がそれを左右しているのでしょうか。この記事では、大量生産と少量生産それぞれのコスト構造とその背景にある要因を解説し、コスト最適化に向けたポイントを具体的にご紹介します。
1. 初期費用と金型費のインパクト
少量生産の場合
プラスチック成形では、「金型」の製作が不可欠です。この金型製作費用は数十万~数百万円と高額で、生産数量に関係なく初期費用として必ず発生します。少量生産ではこの金型費用が1個あたりの製品単価に大きくのしかかるため、1個あたりの単価が非常に高くなります。
例:
- 金型費:100万円
- 生産数:100個 → 単価に上乗せされる金型費 = 10,000円/個
大量生産の場合
一方、大量生産であれば、金型費が多数の製品で分散されるため、単価に占める割合が小さくなります。
例:
- 金型費:100万円
- 生産数:10,000個 → 金型費 = 100円/個
この「スケールメリット」が、大量生産が経済的に有利と言われる最大の理由です。
2. 材料費と仕入単価の違い
少量ロットでは材料コストが高くなりがち
プラスチック材料(例:PP、ABS、PCなど)の購入においてもロット単位で価格交渉が行われます。少量発注では材料業者からの割引が効きにくく、単価が割高になる傾向があります。
大量ロットではスケールメリットが発揮される
一方で、一定以上の数量での取引となれば、材料メーカーとの価格交渉がしやすくなり、kg単価が下がることでトータルコストに大きな差が出ます。
3. 段取り替えと稼働率の違い
少量生産は生産効率が低下
プラスチック成形では、「段取り替え」と呼ばれる金型交換や設備の調整が頻繁に発生します。少量ロットでは製品ごとにこの段取り替えが必要となり、成形機の稼働率が下がる=コストが上がる原因となります。
大量生産はライン稼働率が高い
一方、同一製品を長時間連続で成形できる大量生産では、機械の無駄が出にくく、オペレーション効率が飛躍的に向上します。人件費や電力などの間接コストも抑えられます。
4. 品質検査・出荷コスト
少量でも必要な検査コスト
検査工程では、少量ロットでも一定の時間と手間がかかるため、1個あたりの検査費が高くなりがちです。これは検査の人件費や帳票処理などが影響しています。
大量生産では標準化が進みやすい
製品が標準化されていれば自動検査機器の導入なども可能となり、品質確認の負担が軽減されます。
5. 在庫リスクと納期
少量生産は「ジャストインタイム」に向いている
在庫を持ちたくない、在庫リスクを避けたい企業には少量生産が有利です。必要なときに必要な分だけ生産することでキャッシュフローも健全化します。
大量生産は在庫スペースと保管コストが発生
生産コストは安くても、余剰在庫の管理費や廃棄リスクを抱えることになるため、販売計画と一致していなければ逆にコスト増につながる可能性もあります。
6. 発注側の選定ポイント
発注企業がロット選定で考慮すべき視点は以下の通りです。
項目 | 少量生産向け | 大量生産向け |
初期コスト | 高い(単価に影響) | 低い(単価分散) |
材料費 | 割高 | 割安(交渉可能) |
生産効率 | 非効率(段取り多) | 高効率 |
品質検査 | 個別対応でコスト高 | 標準化で効率化 |
在庫リスク | 低い | 高い可能性 |
単価 | 高くなりがち | 安くなりやすい |
まとめ:最適なロット数は戦略次第
生産数が多い=コスト削減になるという原則は確かにありますが、それが必ずしも「最適」ではない場合もあります。少量生産には柔軟性、キャッシュフローの軽さというメリットがあるため、戦略や事業フェーズによって最適解は変わります。
OEMや試作段階では少量生産、量産フェーズでは大ロットへの移行が王道ですが、それぞれのケースで信頼できる成形メーカーとのパートナーシップ構築がコスト最適化への鍵です。
ご相談はいつでも承っております。コストの試算やロット戦略のご提案も可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。