プラスチック成形の世界では、日々多様なニーズに対応するために、さまざまな成形技術が使われています。その中でも「インサート成形」は、金属部品や異素材をプラスチックで包み込むことで、製品の機能性や耐久性を高める重要な加工方法です。
本コラムでは、インサート成形とはどのような技術なのか、どんなメリットや注意点があるのか、金型職人の視点からわかりやすくご説明いたします。
■ インサート成形とは?
インサート成形とは、金属や異素材の部品(インサート)をあらかじめ金型内にセットしておき、その周囲に樹脂を射出成形することで一体成形を行う技術です。
電気端子、ナット、シャフト、ブッシュなどの金属部品が対象になることが多く、以下のような製品に活用されています。
- 自動車部品(電装コネクタ、センサー部品など)
- 医療機器(手術用器具、計測機器のハウジング)
- 家電製品(スイッチ部品、熱収縮防止機構)
- 工業部品(ネジ受け、金属ブッシュ付き部品)
■ インサート成形のメリット
1. 組立工程の省略と製品強度の向上
金属部品とプラスチックを別々に成形して接着・圧入・ネジ止めなどで組み合わせる方法と比較すると、インサート成形は一体成形のため、後加工が不要です。製品の生産効率が向上し、人的ミスも減少します。
また、金属部品を樹脂で包み込むことにより、外部からの力や振動にも強く、強度と耐久性が高い製品を実現できます。
2. 小型化・軽量化への対応
インサート成形は異素材同士の融合を高精度で行えるため、部品点数の削減や構造の簡素化により、製品全体の小型化・軽量化にも貢献します。これは特にスマートデバイスや自動車部品の分野で重要な要素です。
3. 製品の多機能化が可能に
金属の導電性や強度と、プラスチックの成形性・絶縁性を融合させることで、電気機能や熱機能、構造的特性を併せ持つ製品が作れます。これにより、例えば「絶縁性を持ちつつも通電が必要な端子部品」など、より高度な設計要求に応えられます。
■ インサート成形のプロセス
一般的なインサート成形は以下の工程で行われます:
- 金型内にインサート部品をセット(手動または自動)
- 型を閉じ、インサートを固定
- 射出成形機にて樹脂を射出
- 冷却・固化後、成形品を取り出す
- 必要に応じて後工程(トリミングなど)
現在では、自動化設備によってインサートの搬送・セットをロボットが行う例も増えており、省人化・品質安定化に大きく貢献しています。
■ インサート成形の設計上の注意点
インサート成形では、金型設計や製品設計においていくつかの注意点があります。これらを守ることで、成形不良やコスト増加を防ぐことができます。
1. インサート部品の位置決めと保持方法
金型内でインサートがずれないようにしっかりと位置決めガイドや磁力保持、ピン保持などの方法を検討する必要があります。特に量産時において、インサートのズレは不良率を高める大きな原因になります。
2. インサート部品の加熱膨張・冷却収縮
金属とプラスチックでは熱膨張率が大きく異なります。成形時に金属インサートが加熱されて膨張し、冷却時に樹脂が収縮すると隙間ができたり、割れが発生する可能性があります。材料特性をよく理解した設計が必要です。
3. 樹脂と金属の接合強度の確保
樹脂が金属インサートにしっかり食いつくよう、インサート部品にアンダーカット形状や凹凸加工、ザラつき表面処理を施すことで、樹脂との密着性が向上します。
■ インサート成形とアウトサート成形の違い
インサート成形に似た用語に「アウトサート成形」がありますが、こちらは完成品に後からパーツを圧入・接着する方式です。インサート成形が一体成形であるのに対し、アウトサート成形は二次工程として組立を行うため、設計自由度は高いものの手間がかかります。
■ まとめ
インサート成形は、金属などの異素材とプラスチックを一体化することで、機能性・強度・信頼性の高い製品を実現する高度な成形技術です。成形工程の短縮・製品性能の向上・多機能化など、多くのメリットがあり、近年ますます需要が高まっています。
しかし、インサート成形を成功させるためには、インサート部品の設計、金型の構造、成形条件の最適化が不可欠です。熟練の技術と経験に基づいた工程設計・金型設計が、高品質な製品づくりの鍵となります。