~原価構造を理解して、適正価格で高品質な製品をつくる~
プラスチック製品を検討する際、多くのお客様が最も気にされるのが「コスト」です。しかし「プラスチック成形のコスト」と一口に言っても、その内訳や影響要因は多岐にわたります。
このコラムでは、プラスチック成形のコスト構造をわかりやすく解説し、どのような要因が価格に影響を与えるのか、またコスト削減のためにできる工夫についても、実際の現場目線でご紹介します。
成形コストの主な構成要素
プラスチック成形の総コストは、大きく以下のような項目に分かれます。
コスト項目 | 内容例 |
材料費 | 樹脂原料の価格、添加剤や着色剤の費用 |
成形加工費 | 成形機の使用料(時間単価)、作業者の人件費、冷却や乾燥などの設備稼働費 |
金型製作費 | 金型の設計・製作費用、メンテナンス費用 |
間接費 | 設備維持費、検査・梱包・保管費、管理コストなど |
ロット数・歩留まり | 生産数が少なければ単価は上がり、歩留まりが悪いと不良コストが増加 |
それでは各要素を詳しく見ていきましょう。
材料費のインパクト
成形品1個あたりのコストに大きく影響するのが樹脂の種類と使用量です。
- **汎用プラスチック(PP、PE、PSなど)**は比較的安価ですが、用途が限られます。
- **エンプラ(POM、PC、PAなど)やスーパーエンプラ(PEEK、PPSなど)**になると材料単価が数倍〜10倍以上になることも。
また、製品の肉厚設計が無駄に厚いと、その分材料コストが増加します。設計段階で最適な肉厚やリブ構造にすることで、無駄な樹脂を削減し、コストダウンにつながります。
成形加工費の内訳と最適化
成形加工費は、主に以下の3つから成り立っています:
- 成形サイクル時間:1ショットあたりの時間が短いほど効率的。冷却時間が長ければその分コスト増。
- 成形機のトン数と稼働単価:大型成形機は電力消費が多く、1時間あたりの稼働コストも高くなります。
- 作業人員の介在度:自動化が進んでいるかどうかもコストに直結します。
たとえば、取り出しロボットや自動箱詰め装置を導入することで、人件費削減と不良率低下の両立が可能です。
金型費用の考え方
金型は数十万円〜数百万円と高額ですが、製品1個あたりの金型コストは生産数によって大きく変動します。
- 量産品(10万ショット以上):金型費用は1個あたり数円〜十数円まで下がる
- 小ロット品(1000〜1万ショット):金型費用が1個数十円〜数百円になる
このため、ランニングコストまで含めた総合的な設計判断が重要です。
また、「マルチキャビティ(金型1個に複数個取り)」にすることで、1ショットあたりの生産数が増え、コストダウンにつながります。
ロット数と歩留まりの関係
成形コストは「1ショットでの生産数」「不良品の発生率」によっても変動します。
- ロット数が少ないと、段取りや成形条件出しのコストを回収しきれず、単価が上がる
- 歩留まりが悪いと、原料・電力・人件費が無駄になり、コスト増
したがって、設計段階で「成形しやすい形状にする」ことが非常に重要です。たとえば、
- アンダーカットを避ける
- 肉厚を均一に保つ
- バリが出にくい構造にする
といった設計工夫で、トラブルの少ない金型・成形に近づきます。
コストダウンのための実践ポイント
以下のようなアプローチで、成形コストを大きく削減できます。
施策 | 効果 |
材料のグレード見直し | 高価なエンプラ→汎用樹脂への切り替え |
金型のキャビティ数の最適化 | シングル→マルチで生産性向上 |
成形条件の見直し | 冷却時間短縮、保圧調整でサイクル短縮 |
自動化の導入 | 成形後の取り出し・検査工程の省力化 |
製品設計段階での成形性検討 | 量産前の不具合削減でトラブル回避 |
まとめ:コストの背景を知ることで“賢い選定”ができる
プラスチック成形のコストは、単に「見積額」だけで判断すべきではありません。原価の構造や要因を理解することで、より効率的な製品設計・仕様決定が可能になります。
「成形しやすい設計」「最適な材料選定」「適正な金型構成」「自動化の活用」など、現場の技術者や金型メーカーとしっかり連携することで、品質を落とすことなく、無理なくコスト削減ができるのです。