プラスチック製品の設計において、強度確保と成形品質の安定化を両立させるために欠かせないのが「補強リブ」の存在です。補強リブは、単に肉厚を増やして強度を上げるのではなく、軽量性を保ちながら機械的性能を向上させる設計テクニックのひとつです。
熟練の職人として、数多くの金型製作と成形品量産に携わってきた中で、「リブの入れ方ひとつで製品寿命が変わる」「設計は正しくても、成形では不良連発」そんな場面を数え切れないほど見てきました。
この記事では、補強リブの基本的な役割から、設計時の注意点、失敗しないためのノウハウを、実際の現場の視点で詳しく解説します。
補強リブとは?
補強リブとは、プラスチック製品の薄肉部や広い平面部に配置される、壁状の突起構造のことです。見た目はシンプルでも、以下のような多様な役割を担っています。
補強リブの主な役割
1. 製品の強度アップ
薄肉設計では、曲げやねじれ、外圧に弱くなりますが、リブを加えることで構造体としての剛性が大幅に向上します。特に広い面積のカバーや筐体、フレーム部品などで有効です。
2. 変形防止(反りやたわみの抑制)
成形後の冷却収縮や外力により、反りやたわみが生じやすい部位にリブを配置することで変形を最小限に抑えることができます。
3. 製品の軽量化
単純に肉厚を厚くするよりも、リブで補強する方が樹脂使用量を抑えながら強度を確保できます。これは材料コスト削減や成形サイクル短縮にも貢献します。
4. アセンブリ精度の向上
組み立て時のガイド機能や、部品の位置決め補助としても機能し、組立誤差の抑制や作業性向上にも効果的です。
補強リブ設計時の重要な注意点
リブは便利な構造ですが、設計の基本を誤ると成形不良の原因になります。以下に設計時に押さえるべき代表的なポイントを挙げます。
1. リブの厚みは母材の60%以下が原則
リブの厚みが本体と同じかそれ以上になると、ヒケや**ボイド(空洞)**の原因になります。基本的に、
- リブ厚さ = 母材の0.5~0.6倍 が理想とされます。
例:母材が2mm厚なら、リブ厚は1.0~1.2mmが適正。
2. リブの高さは2~3倍まで
高さを上げすぎると、リブ自体が薄く長くなり、金型の離型性が悪くなるだけでなく、樹脂の流れも不安定になります。
- リブ高さ = 母材の2〜3倍が目安
3. リブと本体の接合部は必ずR(丸み)をつける
シャープな角があると、そこに応力が集中しクラックや破損の原因になります。また、成形時の流動抵抗も大きくなるため、リブ基部にはR0.3〜0.5程度のアールを設けるのがベストです。
4. 間隔・配置バランスに注意
リブ同士が近すぎると、樹脂の流動が妨げられ、ウェルドライン(樹脂が合流する痕跡)が生じやすくなります。
- リブの間隔は、リブ高さの2〜3倍程度空けるのが理想
また、流れ方向に沿って配置すると充填性が良くなり、製品の反りも抑えられます。
5. 成形時の離型方向を意識する
リブが深いと、金型からの取り出し(離型)が困難になります。**リブの垂直方向には必ず抜き勾配(1〜2度)**を設けましょう。勾配が無いと製品が金型にくっつき、離型トラブルになります。
成功事例と失敗事例
成功例:
家電製品のカバー部品で、当初3.5mmの厚肉設計だったが、ヒケが深刻だったため、1.8mmまで薄肉化+リブを追加することでヒケを解消。見た目も機能性も向上し、材料費も約15%削減。
失敗例:
リブ厚を母材と同じにしたため、金型完成後にヒケと反りが発生。CAE解析を後追いで実施し、リブ厚を調整することで収縮バランスが改善されたが、設計変更にコストと納期が大幅にかかった。
CAE解析による事前検証のすすめ
リブ設計が複雑な場合は、CAE(流動解析)による事前シミュレーションが非常に有効です。樹脂の流れや冷却挙動を可視化でき、ヒケや反りのリスクを設計段階で把握できます。
特に多リブ構造の大型部品や、寸法精度が求められる筐体などでは、モールドフロー解析による検証を強く推奨します。
まとめ:リブ設計は“裏の主役”
補強リブは一見地味な存在ですが、製品の剛性・品質・コスト・生産性を大きく左右する、まさに裏の主役です。正しい設計を行うことで、不良を未然に防ぎ、成形の安定化にもつながります。
設計者・金型メーカー・成形現場が一体となり、リブの形状・配置・寸法を適切に検討することが、品質とコストを両立させた製品づくりへの近道です。