~金型精度と量産品質に不可欠な収縮率の正しい理解~
プラスチック成形において、「収縮率(Shrinkage)」は金型設計・製品品質の基礎となる極めて重要な指標です。
もし収縮率を正しく見積もらずに金型を設計した場合、成形後の製品が寸法不良を起こす可能性が高まり、手直しや金型修正に多大なコストと時間がかかります。
本記事では、収縮率の基本的な意味、計算方法、影響要因、注意点、そして実務での対応の仕方を、プラスチック金型の熟練者の視点から解説します。
成形品の「収縮率」とは?
収縮率とは、プラスチック樹脂が冷却・固化する際に起こる体積や寸法の縮小の割合です。
■ なぜ収縮が起きるのか?
熱可塑性プラスチックは、射出成形中に樹脂が高温(約200〜300℃)で溶融状態から冷却されて固体になる過程で、体積が減少します。
この「体積の減少=収縮」は物理的特性であり、どんな樹脂でも必ず起こる現象です。
収縮率の基本的な計算式
収縮率の計算式は非常にシンプルです。
📐 収縮率(%)=(金型寸法 − 成形品寸法)÷ 金型寸法 × 100
または、
📐 収縮率(%)=(成形時寸法 − 成形後寸法)÷ 成形時寸法 × 100
■ 具体的な計算例
例えば、金型側の寸法が100.00mmで、成形品が最終的に98.50mmだったとします。
収縮率 = (100.00 – 98.50) ÷ 100.00 × 100 = 1.50%
つまりこの成形品は1.5%の収縮があることになります。
樹脂別の代表的な収縮率
樹脂の種類によって、収縮率は大きく異なります。
樹脂名 | 一般的な収縮率(%) |
ABS樹脂 | 0.4 ~ 0.7% |
ポリカーボネート | 0.5 ~ 0.7% |
ナイロン(PA) | 1.0 ~ 2.0% |
ポリプロピレン(PP) | 1.5 ~ 2.5% |
ポリエチレン(PE) | 1.5 ~ 3.0% |
POM(ジュラコン) | 2.0 ~ 3.0% |
🔧【職人のコツ】
同じ材料名でも、グレードや添加剤(ガラス繊維など)によって収縮率は大きく異なるため、メーカーのデータシートを必ず確認しましょう。
収縮率に影響する主な要因
収縮率は、単に材料特性だけで決まるものではありません。
以下のような成形条件や金型設計も大きな要因となります。
◎ 成形条件
- 金型温度:温度が高いと樹脂はゆっくり固まり、収縮が大きくなる傾向
- 射出圧力・保圧時間:高圧で長く保圧すれば、収縮は抑制される
- 冷却時間:冷却が不十分だと、後収縮(取り出し後の収縮)が発生する
◎ 金型設計
- ゲート位置とサイズ:流れが偏ると局所的な収縮ムラが生じる
- 肉厚分布:厚肉部分ほど収縮が大きくなりやすい
- ガス抜き構造:樹脂の流動性と冷却効率にも影響
実務での収縮率の取り扱い方
現場では、収縮率は金型設計時に予測・調整するべき重要数値です。
1. 材料メーカーのカタログ値を参考に
まずは、使用する材料の収縮率目安を資料から把握します。
2. 製品の形状や厚みに応じて調整
単純な直方体と、肉厚やリブが複雑な部品では、実際の収縮挙動が異なるため、実績値やCAE(流動解析)を活用します。
3. 試作で実測 → フィードバック
試作型や量産初期ロットで寸法測定を行い、実際の収縮率を逆算して、型修正・条件見直しを行います。
注意点とよくあるトラブル
● よくあるミス
- 成形条件の違いによる収縮率の変動を無視
- 材料変更時の収縮率再設定を忘れる
- 同一金型で異なる材料を使用し、寸法不良
● 精密部品の場合
0.1%の収縮率の違いでも、数十ミクロンの寸法差になります。
これは、ギアのかみ合わせや医療機器では重大な精度不良につながるため、初期設計時からシビアに扱う必要があります。
まとめ:収縮率は「目安」ではなく「設計値」
成形品の収縮率を正しく理解し、設計や成形条件に反映することは、金型の完成度や製品品質を左右する決定的な要素です。
収縮率は決して単なる「目安」ではなく、**製品の寸法精度を守るための設計上の「数値的基準」**として扱わなければなりません。
最後に:収縮率管理のポイントまとめ
項目 | チェックすべきポイント |
材料選定 | メーカーの収縮率データを確認する |
金型設計 | 肉厚、冷却、ゲート位置を意識する |
成形条件 | 温度・圧力・冷却時間で調整可能 |
測定・修正 | 実測値でのフィードバックが重要 |